上の石碑は、道川海岸で初めてロケットの発射実験が行われたことを記念して立てられたものです。
このコーナーでは、その実験の歴史を紹介します。

1955年4月12日。
東京大学生産技術研究所の糸川英夫(いとかわ ひでお)博士たちは、
エンピツのような形の、小さなロケットの発射実験に成功しました。

エンピツを表す英語「ペンシル」にちなんで「ペンシルロケット」と呼ばれるこのロケットは、
横向きに飛ばす「水平発射実験」には成功したものの、
普通のロケットのようにたて向きに飛ばす実験がまだ出来ていませんでした。
実験が出来る場所がなかなか見つからなかったからです。

外国なら広い砂漠などがあるので、十分に場所がとれるのですが、
日本はそのような場所がないので、飛ばしたロケットは海に落とすしかありません。
しかし、当時は戦争が終わって間もない時期で、
太平洋側の海岸はアメリカ軍が管理しており、東京近郊では実験が出来ませんでした。
そこで、日本海側を中心とした実験場所を探すことになったのです。

↑ペンシルロケットを手にする糸川博士

糸川博士は色々な実験場所を探しました。
実は、初めのうちの候補地は新潟の佐渡島、男鹿半島に絞り込まれましたが、
佐渡島は離島のため、機器を運ぶコストや時間がかかるなどの問題がありました。
男鹿半島は陸続きではありますが、狭すぎて実験場としては不向きでした。
そこで、男鹿半島に近い海岸もあたってみようということで道川海岸を訪れたところ、
十分な広さがあり、町にも近く宿舎を確保しやすいという利点もあったので、
最適な場所として選ばれました。

1955年8月6日。いよいよ第1回目の実験です。
博士は長さ30センチの「ペンシル300」ロケットを発射台にセットし、点火しました。
ロケットは発射台を離れ、

砂浜の上をいきおいよく這いずり回りました。

今となってみれば笑い話のような失敗談ですが、
もっと大きなロケットで実験していたら大事故になってしまうところでした。

急いで発射台を改良して、2度目の発射実験を行いました。
これは無事に成功し、到達高度600m、飛翔時間16.8秒を記録することができました。
ペンシルロケットの実験は8月8日まで続けられ、その後の実験は、
より大型のベビーロケットカッパ(K)ロケットというタイプに引き継がれていきます。

↑道川海岸に作られた初期の実験場

1962年。この頃になるとロケットはだいぶ高い高度(2〜300kmほど)まで飛ぶようになり、
コースを誤ると韓国の領海まで飛んで行ってしまうおそれが出てきました。
そこで、今後は高さをおさえた実験を中心に行うことにしていたのですが、

5月24日にカッパロケット8型10号機が打ち上げ直後に爆発を起こす事故が発生しました。

幸いにして死傷者は出ませんでしたが、道川地区の方々の協力が得られなくなってしまい、
東京大学は実験場を閉鎖することになってしまいました。
この年までに道川から打ち上げられたロケットは合計88機にものぼり、
後のロケット開発に役立つ多くのデータを残しました。

事故が起こったことは残念ですが、ロケットが大型化した現在でも、
この事故と類似した事故は一件も起こっていないなど、
ロケットの信頼性を高める多大な教訓を残すことはできたのです。

このとき、秋田県は「何か代わりの施設を県内に残してほしい」と、
東京大学に要望を出しました。

これを受けて、能代市にロケットモーターの地上試験場「能代ロケット試験場」
(現:JAXA能代多目的実験場)が建設されました。
今でもこの実験場では、日本の宇宙ロケットのエンジン燃焼試験が続けられており、
非常に重要な役割を担っています。

↑爆発の瞬間

↑事故を起こしたK-8型ロケット

1965年5月および9月。
東京大学が撤退した後の道川実験場で、航空宇宙技術研究所(現在はJAXAに統合)が、
NAL-7ロケットの基本データ収集のための打ち上げを行いました。
これは航空宇宙技術研究所にとって初めての打ち上げであり、
同時に道川実験場での最後の打ち上げとなりました。

その後、日本のロケット打ち上げは鹿児島県の種子島宇宙センターに引き継がれていき、
現在に至ります。

現在、道川沿岸に実験施設などは一切残されていません。
最初に紹介した石碑が、日本のロケット発祥の地であったことを今に伝えています。

糸川博士は1999年2月に亡くなりましたが、
2003年に発見された小惑星「イトカワ」にその名が冠されています。
この「イトカワ」に、探査機「はやぶさ」を接近させ、その地表サンプルを回収するという
一大プロジェクトが進行しています。

(2010年初夏、はやぶさはイトカワの塵が入っているとみられるカプセルを地球に投下し、
大気圏に突入して燃え尽き、その役割を終えました。
2010年秋、JAXAにてカプセルの中身の検証が行われた結果、
明らかに地球と異なる組成の微粒子が検出されました。
この結果は、太陽系の誕生の秘密を解き明かす重要なヒントとみられています。)


その他にも衛星の打ち上げ、国際宇宙ステーションへの物資運搬など、
ロケットの果たす役割は多種多様です。
私たちのはるか上空にある人工衛星、それもすべては道川海岸があってこそ打ち上げられた。
そう思いを馳せてみるのも面白いかもしれませんね。